妖怪ゴミ漁り

町に、一人の妖怪がいた。

彼の名は妖怪ゴミ漁り。ゴミを漁り、食べるだけの妖怪である。プラスチック、生ゴミ、粗大ゴミ、他にも多々ゴミの種類があるが、彼はどの種類のゴミでも食べることができた。「人に棄てられた。」ということが彼にとって、物が食べ物に変わるということだった。

彼の見た目は、ほとんどが人間に近い。身長は大体160cm、細身で体毛もあり、髪や脇毛と人間のそれと同じである。しかし三つだけ、人間と違う点がある。まず一つが、体色が紫色なのだ。紫といっても、明るみがかった紫ではなく、濃く、黒に近い紫だった。次に、彼の眼であった。彼の眼はまるでカタツムリの眼のように人間の眼の位置から飛び出し、先端にちょこんと眼球が置かれていた。そして、最後の違いは口であった。口と思われるものが顔にぽかんと穴を開けているのだが、その穴は本当に開いているだけであって、唇もなければ歯もなく、舌もない。たまに粘液がドロリと垂れ落ちるくらいの穴だった。舌や歯がないせいか、彼は口をきけなかった。

外見のせいか、景観を損なうという苦情がよく市役所に届けられていたが、ゴミを食するだけの妖怪であったため、有益妖怪として、駆除されることはなかった。そしてしばらくして、妖怪ゴミ漁りの行動の結果道端にゴミが落ちているのを見なくなったので、市民の妖怪ゴミ漁りに対しての嫌悪感は和らいだ。

そして数年たった日の朝、妖怪ゴミ漁りの死体が見つかった。撲殺が原因とみられる痣が各所に残っていた。撲殺を行ったのは、死体の横に立っている、この市に住む一人の会社員だった。それには皆、耳を疑った。というのも彼は真面目で、問題ひとつ起こしたことのない人物として有名だったからだ。その青年は、死体の傍らで、こう言った。「ゴミ掃除による景観保護を理由に保護されていたが、そもそもこの妖怪の存在自体が景観を損なっているではないか。」と。

彼の行為には賛否両論あったが、結果的に「妖怪殺害は法律上何の問題も無い」となり、いつしか人の記憶から妖怪ゴミ漁りは消え去り、道路にはゴミが転がった。