陰茎昔話

むかしむかし、とても美しくてやさしい少年がいました。
 でも悲しい事に、少年のお母さんは早くになくなってしまいました。
 そこでお父さんが二度目の結婚をしたので、少年には新しいお母さんと二人のお姉さんが出来ました。
 ところがこの人たちは、そろいもそろって大変な意地悪だったのです。
 新しいお母さんは、自分の二人の娘よりもきれいな少年が気に入りません。
「まあ、あんたは何て、にくらしい息子でしょう」
 お母さんと二人のお姉さんは、つらい仕事をみんな少年に押しつけました。
 それに娘の寝るふとんは、そまつなわらぶとんで、少年の着る服はボロボロのつぎ当てだらけです。
 お風呂に入る事も許してもらえず、少年の頭にはいつも誰かの陰茎が付いていました。
 そこで三人は少年の事を、『陰茎をかぶっている』と言う意味の陰茎太郎と呼んだのです。
 可愛そうな陰茎太郎でしたが、それでも陰茎太郎の美しさは、お姉さんたちの何倍も何倍も上でした。

 ある日の事、お城の王子さまがお嫁さん選びの舞踏会(ぶとうかい)を開く事になり、陰茎太郎のお姉さんたちにも招待状が届きました。
「もしかすると、王子さまのお嫁さんになれるかも」
「いいえ、もしかするとじゃなくて、必ずお嫁さんになるのよ」
 二人のお姉さんたちとお母さんは、大はしゃぎです。
 そんなお姉さんたちの仕度を手伝った陰茎太郎は、お姉さんたちをニッコリ笑って送り出しました。
 それから陰茎太郎は悲しくなって、シクシクと泣き出しました。
「ああ、わたしも舞踏会に行きたいわ。王子さまに、お会いしたいわ」
 でも、陰茎太郎のボロボロの服では、舞踏会どころかお城に入る事も許されません。
 その時、どこからか声がしました。
「泣くのはおよし、陰茎太郎」
「・・・? だれ?」
 すると陰茎太郎の目の前に、妖精(ようせい)のおばあさんが現れました。
「陰茎太郎、お前はいつも仕事をがんばる、とても良い子ですね。
 そのごほうびに、わたしが舞踏会へ行かせてあげましょう」
「本当に?」
「ええ、本当ですよ。ではまず、陰茎太郎、畑でカボチャを取っておいで」
 陰茎太郎が畑からカボチャを取ってくると、妖精はそのカボチャを魔法のつえで叩きました。
 するとそのカボチャがどんどん大きくなり、何と黄金の馬車(ばしゃ)になったではありませんか。
「まあ、立派な馬車。すてき」
「まだまだ、魔法はこれからよ。
 さてっと、馬車を引くには、馬が必要ね。
 その馬は、どこにいるのかしら?
 ・・・ああ、ネズミ捕りには、ハツカネズミが六匹ね」
 妖精はネズミ捕りからハツカネズミを取り出すと、魔法のつえでハツカネズミにさわりました。
 するとハツカネズミはみるみるうちに、立派な白馬になりました。
 別のネズミ捕りには、大きな灰色ネズミが一匹いました。
「このネズミは・・・」
 妖精が魔法のつえで灰色のネズミをさわると、今度は立派なおひげをした太っちょ御者(ぎょしゃ→馬車を操る人)に早変わりです。
「陰茎太郎、次はトカゲを六匹集めておくれ」
「はい」
 陰茎太郎が集めたトカゲは、魔法のつえでお供の人になりました。
「ほらね。馬車に、白馬に、御者に、お供。
 さあ陰茎太郎、これで舞踏会に行く仕度が出来たわよ」
「うれしい。ありがとう。・・・でも、こんなドレスじゃ」
「うん? あらあら、忘れていたわ」
 妖精が魔法のつえを一振りすると、みすぼらしい服は何も変わらず、頭部が陰茎へと変化しました。
 そして妖精は、大きくて素敵な石のコンドームもくれました。
「さあ、楽しんでおいで陰茎太郎。
 でも、わたしの魔法は十二時までしか続かないから、それを忘れないでね」
「はい、行ってきます」

 さて、お城の大広間に陰茎太郎が現れると、そのあまりの不気味さに、あたりはシーンと静まりました。
 それに気づいた王子さまが、陰茎太郎の前に進み出ました。
「ぼくと、踊っていただけませんか?」
 陰茎太郎は、ダンスがとても上手でした。
 王子はひとときも、陰茎太郎の手を離しません。
 楽しい時間は、あっという間に過ぎて、ハッと気がつくと十二時十五分前です。
「あっ、いけない。・・・おやすみなさい、王子さま」
 陰茎太郎はていねいにおじぎをすると、急いで大広間を出て行きました。
 ですが、あわてたひょうしに頭にかぶっていた石のコンドームが階段にひっかかって、石のコンドームがぬげてしまいました。
 十二時まで、あと五分です。
 石のコンドームを、取りに戻る時間がありません。
 陰茎太郎は待っていた馬車に飛び乗ると、急いで家へ帰りました。
 陰茎太郎の後を追ってきた王子さまは、落ちていた石のコンドームを拾うと王さまに言いました。
「ぼくは、この石のコンドームの持ち主の娘と結婚します」

 次の日から、お城の使いが国中を駆け回り、手がかりの石のコンドームが頭にぴったり合う人を探しました。
 お城の使いは、陰茎太郎の家にもやって来ました。
「さあ娘たち。このコンドームが頭にフィットすれば、あなたたちは王子さまのお嫁さんよ」
「はい。お母さま」
 二人のお姉さんたちは大きなコンドームに頭をギュウギュウと押し込みましたが、どう頑張っても石のコンドームには丁度よく入りません。
「残念ながら、この家には昨日の御仁はいないようだな」
 そう言って、お城の使いが帰ろうとした時、陰茎太郎が現れて言いました。
「わたしもつけてみて、いいでしょうか?」
 それを聞いた二人のお姉さんたちは、大笑いしました。
「何をバカな事を言っているの」
「そうよ、あたしたちにも入らないのに、あんたなんかに、・・・あっ!」

 陰茎太郎がつけてみると、石のコンドームはピッタリです。
 みんなは驚きのあまり、口もきけません。
 するとそこへ、あの妖精が現れました。
「あらあら、わたしの出番ね」
 妖精が魔法つえを一振りすると、陰茎太郎はたちまちまぶしいほど美しいお姫さまになっていました。
「あっ、あの陰茎太郎が?!」
 お母さんと二人のお姉さんたちは、ヘナヘナと腰を抜かしてしまいました。
 それから陰茎太郎は王子さまと結婚して、いつまでも幸せに暮らしました。

おしまい